あんたがいないよる

乳がん発全身転移により旅立った嫁への溢れかえる想いを綴っていこうと思います。

嫁が来た

帰宅してベランダでタバコを吸っていたら、膝にコガネムシみたいのが乗ってきた。

びっくりして慌てて払いのけて、ベランダから落としてしまった。


ふと思いを巡らせ「・・・あっ!!!」と思った。もしかしたら嫁が虫の身体を借りて来たのかも知れなかったからだ。

やってしまった・・・と思い、「もし嫁ならもう一回来てね」と言った。


来ないか・・・と思いつつ、続けてタバコをもう一本吸う事にした。

二本目のタバコを吸っていると、首に何かを感じた。

また虫か!と思って軽く触ってみると、ベランダの床にポトっと落ちた。

見れば間違いなくさっきのコガネムシみたいのだった。


思わずそのコガネムシみたいのに話しかけて、名前を何度も呼んでしまった。

自分には呼ぶ度に触角を動かしていたので、返事をしていたのだと思う。


数分間床で寛いだあと、窓や網戸に張り付いたり、自分の周りを何度も飛んで回って去って行った。

誰が何と言おうと、あれはコガネムシみたいのに身体を借りてやってきた嫁に違いない。絶対にそうだ。

また週末が来る

週末の過ごし方がわからない。


出逢った頃は在宅で仕事をしていた。その頃嫁は専業主婦だったので毎日家事育児をして過ごしていた。

まだ付き合ってもない頃から付き合い始めは週末などなく、お互いに曜日も関係ない状態だった。


しばらくして同じコールセンターに務めて、休みを合わせていた。コールセンターと言う特性上、平日休みも当たり前で、やはり週末などなかった。


またしばらくして、それぞれのやりたい仕事に分かれた。お互いにPCやネット系の仕事に就きたいと思い、嫁はプロバイダのコールセンターの仕事、自分はSEの職に就く事になった。


自分が就いたのは某映像出版会社への派遣で、普通の会社なので月~金が仕事で土日が休みだった。

嫁も何とか日月を休みにして、ようやく週末と言う概念がお互いに生まれた。


自分の自宅と嫁の自宅は多少離れており、電車で約2時間の距離だった。嫁は息子がいるのもあり自分が毎週末向かう形だったが、嫁の職場は自分の家から嫁の自宅に向かう途中だったため、土曜の嫁の仕事終わりに迎えに行き、嫁の自宅に向かうのが至福の時だった。


しばらくして自分は会社と現場が変わり、個人事業主となるが、相変わらずの週末は心地よいものだった。


そんな週末を今、どう過ごしたらいいかわからない。


嫁が好きだったStreet Slidersの曲の「蜃気楼」のフレーズで、こんな一節がある。



使いきれない一人のときが アスファルトにうずくまってる



まるで今の自分を表している。

さてと

これから色々とどうしたものか。

何だか何もやる気が起きないし、体調まで怪しくなってきた。


息子に精神的にキツくて体調が悪いと言ったら「ゆっくり休んでね」だと。

お前のせいなんだよ・・・


昨年の夏くらいに嫁の母が尿路感染症で入院した。

嫁の母はそれをきっかけに歩くのが厳しい状態となってしまった。加えて様子がおかしく、お見舞い行き何を話しても「とにかく私は帰りたい」と言った。その時の目がおかしかったのを嫁と話していた。

結局はリハビリをきちんと終える前に無理矢理退院し、その後はどんどん歩けなくなり痴呆になってしまった。


素人の介護は困難を極めた。既に嫁の母の入院直前に転移が発覚しており、徐々に動けなくなって行く嫁と、ほとんど動けない嫁の母。自分と禄に自分の事が出来ない息子では酷くなって行く一方だった。


酷い状況からなんとか老人ホームに入れ、嫁の母の介護から解放されたのは今年の4月前半だった。しかし4月後半には嫁が自宅に帰らぬ入院をする事になった。


自分は嫁にほぼ付きっきりだったが、家は息子に任せて週に3回くらい少し帰って掃除洗濯などやれる事をやっていた。


そんな最中、息子は留守をいい事に嫁の母が部屋にしていたリビングを自分の部屋のようにしていた。

嫁の母が去年入院していた時も同じ事をしていて、嫁にも自分にも散々怒られて「もう絶対やらない」と言っていた。

嫁の母は老人ホーム、嫁は入院の中、あまり怒る気にもならず、使ってもいいけどちゃんと片付けて、と言って「わかった」と言っていたが、結局そのまま片付ける事なく、自分の第2の部屋として今も自由に使っている。


そこへ来て、嫁が旅立って今度は嫁の部屋で勝手にアニメのBlu-rayを持ち込んで、自分の部屋のようにしていた。まだ49日も過ぎてないのに。

怒る気にもなれず、Blu-rayレコーダーを外して「これで満足だろ」と渡した。


顔も見たくないのでLINEでやり取りし、「なんでやったか正直なところ教えてくれ」と言ったが結局返事は来なかった。

そして今日、返事ではなく関係ない事でLINEしてきた。そこで精神的にキツくて体調が悪いと言ったら先の返事だった。


悲しみに暮れながらも嫁の遺して行ったものを大事にしようと思っていた。でも件の息子は平気で嫁を冒涜した。嫁の母と違って家にいないだけとは違うのに、何でそんな事が出来るんだ・・・

唯一信頼出来ると思っていたのに、今の自分では到底無理だ。


何もかも捨ててどこかへ消えてしまいたい。でも連れ添ってきた猫達がいるから、この子らのためには絶対に消えたりしない。